時の鐘スケッチ
イナエ

山を背にした集落の
家家の屋根から突き出た鐘楼ひとつ
奥の旅を終えた芭蕉も伊勢に下る船上で
この鐘の音を聞いただろうか

港のあったこの集落に都会の風が吹き込んで
集落を縫う曲がりくねった街道は
自動車の通る道路になった
旅人が船で往来した川の
港は集落の奥深くに埋もれ
旅籠の看板も芝居小屋の幟も失せた

空に突出して
旅する人を迎え
集落を見おろしていた鐘楼は
板壁で口を閉ざされ
時の経過を告げることなく
都会の名を着た集落は
山麓の日溜まりの中で
音も立てず 眠っている


自由詩 時の鐘スケッチ Copyright イナエ 2014-11-13 10:19:47
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