眠れない夜の果て
阿ト理恵



なんでもない日だった。大きくのび、した。ボンデングワイヤーのような糸月のひかり、からだの底まで届き、魂のきしむ音、微かにきこえた。すこしだけ走ってみた。裏の森へ行ってみようと。が、すぐ、たちどまり、きょろきょろッ。誰もいない。ぶんぶん耳をふる。折る。針金のようなからだを。


しばらくして、って、アバウトにしか云いようがないのは、腕時計なんかしてないからで、たぶん、おおよそ、しばらくたってたんだ。みあげれば、月は胡座かいて、雲ひとつない空のてっぺん。天使なんか降りてこないことはわかってる。べつに急ぐ必要なんかない、けど、また走ってしまう、走っては、すぐにたちどまる。むかしむかしおおむかし、うさぎみたいなバスケット選手だったからかもね、ダッシュしてキュッと。ダッシュでキュッ、ダッシュでキュッ、ダッシュでキュッ。フェイントするたびにキュッって、だます音は爽快だった。なんて音を想い出していて、なかなか森の入口へたどり着けない。

ニルヴァーナのカート・コバーンが履いてたコンバース・オールスターハイカットの白いキャンパス生地の靴とおんなじの履いてるんだけど、ふぁっくゆーとか落書きはしてない。きれい好きだから。なのに、今夜は、雨あがりの土の道でダッシュしてしまったから、青い星印のまわりが泥の歪んだグレー水玉模様になっちゃって、ってゆうか、暗いから想像なんだけど、たぶん、そうなってる。かまわない。ぬかるみを猛ダッシュして止まった時の音だって、ひきしまったキュッ、とかじゃなくって、にごった音

ぎゅっ



へへっ、もう、よなかに森へ木を抱きにゆかなくてもいいような気がしない?

なんとなくだけど







散文(批評随筆小説等) 眠れない夜の果て Copyright 阿ト理恵 2014-11-12 20:42:02
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