阿ト理恵

月が毎年4センチメートルずつ地球から離れてゆくことを知ってしまったわたしは、屋上でゾウが飼える家を建てた人は湘南動物プロダクションからゾウを買い取るのか気になりはじめた。消臭スプレーを振り撒いたキッチンの無煙グリルで焼いたサンマに秋など感じないし、抗菌ボールペンで抗菌ペーパーに書いた清潔という文字は不潔な気がする。オゾン層に穴をあけたのはパラドックスの束だとして、犬は悪くない。

「こんこん入ってますか」
「こんこん動いてますか」

中指のぷくっと膨れた指紋の中央で頭を叩いてみれば、おもいあがりのおもいやりに脳味噌パーシャル。意志など首で切断され届かない。肉は肉。骨は骨。血は血。てんでに遊ぶ。ひとつにまとめようとコントロールしようとすることがそもそも間違っていると。オーバーヒートな熱月から、ぼっぼっぼっぼっ、シュウゥゥゥゥ16分音符3連符ソソソラララドドドミミミな魔の音程が逃げ出してゆく。月くらい奪えそう。最大限に開かれた毛穴から棚卸しされる記憶。他人の声ばかり聞こえて、自分の声を忘れて。

もう…もう…もう…もうの後に吐くイイカゲンニシテ!は哲学を分裂させ、熱にうなされた月の庭で犬になったテツとガク、燃えるの、かっこいいの、

なんて、高熱にうなされながら、あまさらさんが即興ゴルコンダ(仮)でだしてくれたタイトル「穴」について穴について穴についてずーっと考えていて、穴という文字を穴があくくらい見続けていたんです。

とどのつまり、わたしは、ただ、これだけが云いたかったような、叫びたかったような、気がするんです。


「空にエってびっくりするような穴をみつけた!」

ってね。








散文(批評随筆小説等)Copyright 阿ト理恵 2014-11-12 20:40:13
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