夕焼け
Lucy

焦げ付いたワインレッドの残り火が
目に焼き付いた
角を曲がる時ほんの一瞬見上げた空
次の角まで行った時には
もう消えているのだろう

建物の傍に続く歩道を
急ぐともなく歩いた

けれど
その次の交差点で見上げた時
まだ雲は赤かった

肺炎を患い
もういつ急変しても不思議はないと
医者に言われた
寝たきりの父

何日も何ヵ月も
眉を寄せ
弱々しく呻り声をあげ
時々訴えるような
切ない瞳を向けてくる
もう何のために生きているのか
苦しむためだけに生きているのかと
思わせられて
見舞いの足もつい遠のいていた

あり得ないと思っていたのに
父が再び恢復して
笑顔を見せた
あれはどう見ても
笑顔だった

苦しみが去り
父は今日命あることを
喜んでいるようだ
「俺はまた命拾いしたなあ
おまえたちの顔がまた見れて
嬉しいぞ」
そんな言葉が聞こえた気がした

おとうさん
ごめんなさい
絶望しかけた私を
許してください

国道沿いのバス停まで歩く
夕焼けは
バスに乗り込んでからも
消えずにずっと見えていた







自由詩 夕焼け Copyright Lucy 2014-11-12 00:33:33
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