ビリジアン / 使い古しのチューブを握りしめて
beebee

ビリジアン



青みがかった緑色
鮮やかなビリジアンの色見本に
忘れていた記憶を取り戻した


ビリジアンが青色だと思っていた


その主人公は耳が聞こえず
声も出せず
それだけに見えるであろう真実が
彼の絵筆を走らせた
自分はそのすっきりした容貌に憧れた
主人公の才能に憧れた


その画家がヒロインに投げ与えた
ビリジアンの油絵の具のチューブが
青空をバックに彼女の手に落ちる
その情景とともに頭にあって
青色だと誤解していたのだ


確かにその時彼が描いていたのは
青空に負けず繁茂する若葉の塊だった
若々しいエネルギーと新鮮な色合い
清潔な輝きが二人の関係を暗示していた


不思議と自分はその誤解に気づき
失望ではなく
新しい発見に喜びを感じた
鮮やかなビリジアン


その色の暗示するものは何だろう
受け渡したものは何だったのか
私は考えるのだ
私は誰かに手渡して来ただろうかと


"強くあれ、自分よ強くあれ"


口に出して言えば簡単な事を
生きる姿勢を
貫く自信を持てと
彼は話せない中で
鮮やかなビリジアンの絵の具を使って
確かに手渡したのだ


自分はちゃんと
手渡して来たのだろうか


思いに苦しむ子供の時代の自分に
怒りや惑いに苦しむ成人の自分に
将来の不安に煩悶する若い君に
白い脆い紙粘土のような
恐れも希望も練り込む前の
子供達の自我に


青空にも負けないビリジアンの心を
スッキリと自分に向かい合う姿勢を
負けない心を
強くあれ
自分よ強くあれと願う心を
渡したい
伝えたい


"強くあれ、自分よ強くあれ"


きっと私の手にも
鮮やかなビリジアンの絵の具を
折れ畳まれても大きなチューブを
握りしめて







自由詩 ビリジアン / 使い古しのチューブを握りしめて Copyright beebee 2014-11-11 07:46:09
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