百鬼繚乱 < 4 >
nonya


NUE(鵺)


猿の
  小賢しさと
狸の
  強かさと
虎の
  素早さと
蛇の
  執念深さが
艮の
  夜空で出逢う時
人の
  内の矛盾は
闇の
  中に滲み出し
鬼の
  匂いを放つ

   ヒョーヒョーと
  喚きながら

新月の
   漆黒を
    のたうち回る





NUREONNA(濡女)


朝焼けは泣き腫らした
まぶたの色
わたしは泣かないけれど
水平線の向こうに
捨ててきたわたしの心は
泣きやむことはない

夕焼けは嘘で装った
くちびるの色
騙したり傷つけたり嘲ったり
ますます厚くなっていく
わたしの鱗は見栄と欲を
照り返すばかり

そんなわたしなのに
それだけのわたしなのに
まっさらな眼差しで
信じると言ってくれる

あなたって馬鹿じゃない?

尻尾のようにつきまとう
わたしの過去をあなたは
決して踏んだりはしない

潮風のように哀しく湿った
わたしの傍らであなたは
一緒に黙り込んでくれる

余計なお世話
だけど
わたしも馬鹿になってみようか

痛みを堪えながら
鱗のような嘘を剥がし終えた
まっさらなわたしを
あなたは抱きしめてくれるだろうか





NUPPEFUHOFU(ぬっぺふほふ)


どいつもこいつも
汚物を見るような目つきで
俺を避けて通る

負け続けた肉の
成れの果てだよという囁きは
たぶん空耳

好きで蓄えた脂身の
どこが悪いと開き直り
安酒に正体を失って
ぬらりぬらりと千鳥足

つれなく閉ざされた
商店街のシャッターに
ぐんにゃり寄りかかった俺を
月だけが見ていた





SUNAKAKEBABAA(砂かけ婆)


砂はいつも
逃げようとする
人の
時の
てのひらから

砂はいつも
逃げようとする
人の
空の
吐息から

貴方もいつも
逃げようとしていた
私の
縁の
腕の中から

砂のように
何も残さずに
逃げおおせると
思ったのだろうか

貴方を思い出すたび
私の身体のすみずみで
逃げ遅れた砂が
軋んだ音をたてて
すすり泣く




自由詩 百鬼繚乱 < 4 > Copyright nonya 2014-11-09 09:54:16
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