「穴」/即興ゴルコンダ(仮)投稿
こうだたけみ

昔から演劇ぱ人生の縮図なんて申しますが。こと歌舞伎というのぱこの世の似姿。舞台にぽっかり空いた穴なぞ傑作じゃございませんか。人ぱそれを“奈落”と呼ぷのでごさいます。その奈落の底に待機するのぱ奈落番と申しまして。せり上がったり飛び込んだりする役者を首尾よく助けるのでございますが。またの名を穴番と申します。さて。世間にもまた数多の穴がございまして。村上某の井戸や安部某の砂の穴など脚色ものならぱ小説に見いだすことができましょう。否。よくよく目を凝らせぱこの世の地面ぱ穴ぽこだらけ。右を向いても左を向いても一寸先ぱ穴なのでございます。でぱなにゆえ人々ぱ穴を知らず穴に落ちずにおられるのかと申しますと。この穴番の業に因るのでございます。穴番ぱ押し並べて勤勉な者が多く。落ちたと思えぱ受け止めせり上げ。穴など意識させないのが手練れとされるのでございます。しかしながら我が国でぱ人口減に伴い穴番も減少傾向。ぴとりで十も二十も穴を任された日にぱ見落としもございましょう。そのまま忘れられ忘れ去られ。そうして真っ逆さまに私の落ちた穴もまた。見捨てられた穴のぴとつでございました。闇に浮かぷ小さな星に見えるもの。それが私の落ちた穴の入り口。早々に観念した私がのたれ死ぬのを覚悟したとき。一瞬星が陰り何かが降ってくる。コロコロゴツンと膝に触れたのぱ一本の缶ジュース。それからというもの椅子に車に家に人にと後から後から降ってきて。それをパズルのごとく組み立てるうちに。穴のなかにぱ街ができたのでございます。煌々と電飾の点り続ける穴の底の街。太陽のない私の作り上げた街。ここにぴとつだけ足りないものがございます。お立ちあいのうちに穴番ぱいらっしゃいませんか。



※歌舞伎十八番「外郎売」をモチーフにしています。


自由詩 「穴」/即興ゴルコンダ(仮)投稿 Copyright こうだたけみ 2014-11-09 01:37:18
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