夕萓に
藤原絵理子


リルケの詩集を 雪の積もった日に
重いコートの襟を立てて 携えてきた
大事な宝物のように 頬を赤くして
そんな時代に きみの後姿が重なる


茶色くなった 欅の落ち葉に書いた
秋の香りが ゆるやかに 包んで
セピア色の写真から 流れ出た
哀しみは ありふれた日々に 薄らいだ


咲き遅れた 夕萓が蕾のまま 
乾いてしまった 華やかな紅葉に埋もれる
枯れ草色の土手で 吾亦紅が笑っている


古い町の ひなびた書店で 探してみた
きみの詩集は もう 忘れ去られて
書棚には見当たらなかった


自由詩 夕萓に Copyright 藤原絵理子 2014-11-08 22:34:52
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