ひとつ わざわい
木立 悟




真夜中の
狭い径で
首をまわし
何事かを騙りながら
空の明るさを
隠す四ッ足


日々の渇き
別の轍
水に堕ちて
再び昇る目
静止したものが
見えない目


家の隣の家
真新しい家
影も灯も見えない家
いつまでも
真新しい家
隣の隣の
さらにさらに遠くまで


雨が径から持ち去る光
失われた言葉が集う場所
ひとつから無数に分かれる影
見えないもののにおいに迷い
夜を埋める夜の蟻たち


いつのまにか血に近づいた
枯れたにおいは警告なのか
悲しみは交差することのない多重の輪
ひろがりはじめ
ひろがるばかり
ひろがり終わることさえもなく


雨のなかを
角を持つ生きものの群れが駆けてゆく
扉の高さの風が打ち寄せ
波に重なる波のように
姿を消し去り音を運ぶ


わざわいはわざわいの目を見ない
あがめることも
畏れることもなく
片目をつむり
枯れかけた桃のかおりを吸う




























自由詩 ひとつ わざわい Copyright 木立 悟 2014-11-04 00:57:26
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