静かな手
塔野夏子

何に耐えかねてか
世界からぱらぱらと言葉が剥がれ落ちる
きらめく言葉
傾いた言葉
青ざめた言葉
しどけない言葉
跳ねまわる言葉

何に耐えかねてか
僕からもぱらぱらと言葉が剥がれ落ちる
いつか君から受けとった言葉も
やがては?

ねじれた言葉
うつむく言葉
夢みる言葉
散歩する言葉
あどけない言葉
けれどそんな剥がれ落ちた言葉たちを
ひろいあつめる静かな手が存在するそんな気がする

その静かな手は
ひろいあつめた言葉たちを
ほの暗い部屋で
たいせつに標本箱にならべるだろう
そしていつか僕らは
その部屋を訪れて
ならべられた言葉たちに見入るだろう

あるいはもう僕たちは
その部屋を訪れたことがあったかもしれない
静かな手の持ち主と
静かに目を見交わした
そんなことがすでにもう
あったかもしれないそんな気がする





自由詩 静かな手 Copyright 塔野夏子 2014-11-03 22:42:28
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