乱世
春日線香
握りこぶしが茹でられてしまった
蝉しぐれのたらたら坂を
真っ赤な両手を引きずって上っていくと
向かいにやってくるのは
はたして豆腐小僧
「そんな」
「そんな腕で来た」
とは早口の詰りで
練った豆腐を丁寧に塗りつけてくれる
大豆には大豆の理論があるのだろう
昼日中の往来で
睦み合うごとくに覆われていく眼前に
大門が伸び上がる
草に被われた
古風な屋敷が用意されているのだ
百年も続く将棋が
争われている空間で
わたしたちはさもしく川魚を食べることだ
戦いは右に振れ
左に振れ
敗者は調理されて舌の上に乗る次第
「うで」
「うで」
どうやら決定的な一手が突き出されようとしている
が残念なことに腕は茹でられてしまっているので
わたしは言うしかないのだった
「知らんがな」
蝉がみしっと鳴き止む
それからまた百年