ひとつ 逢魔
木立 悟






枝の影
蜘蛛の影
午後から夜への
庭を噛む影


わずかに斜めの
旅をしてきた
骨に沈む目の
まばたきを数えた


うるおいを はばたきを
置き去りにしてなお
泣きころげまわり羽毛を散らし
径を横ぎり 落ちてゆく


崖は甘く
越えられぬ罠
たくさんの想いがわだかまり
手のひらに水をすくい
高くまばゆいものを映す


僧兵に似た鉄塔が
午後の曇を背にゆらめいている
呼吸は細く 縦に連なり
ひと足ごとに
歩みを牢に入れてゆく


むらさきと白のさかいめに
黒いにおいの洞があり
己が望みとは異なる生を
呑みこみ 
吐き出しつづけるという


門のかたちをなぞる灯が
暗がりに溶け落ち 冷えてゆき
風に土に
行方なくころがる


火が火を包み 燃えあがり
息だけを焦がし宙に消える
岩壁を覆う蝶の群れ
水草の色を変えてゆく


崖はつづき
径はつづく
曲がり角のない夕暮れが
手のひらの水底にまたたいている
































自由詩 ひとつ 逢魔 Copyright 木立 悟 2014-10-31 09:35:09
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