月とピアノ
大島武士

空を覆う岩戸の内側で
空の彼方に思いを馳せながら
ピアノの音を聴いていた

太陽と月に生かされ続けて
ピアノの音を聴いていた

荒ぶる神を  
祭ることも 鎮めること忘れていた
小さな島国で
月の光に心を満たされて
ピアノを聴いて願い事をした

月の光は昔からずっと
炎なんて一度だって起こしはせずに
かすかな輝きで心を満たして
人々を夜ごと  
もの悲しい気持ちにさせたまま
何度も優しく蘇生させていった

月は年ごとほんの少しずつ
この星から遠ざかってゆくと知って
永遠に変わらないものはないと知ったなら
空を覆う岩戸の内側で
今をなおさら愛おしく感じた

空を覆う岩戸の内側で
僕は政(まつりごと)を揺さぶる言葉を探して
月の光の差し込む部屋で
細かいリズムのピアノの音に
鋭く耳を傾けていた

空を覆う岩戸の内側で
永遠と無限に思いを馳せながら

小さな叩くようなピアノの音に
夜を揺さぶる黒魔術のような
明日の自分を揺さぶる言葉を探した

荒ぶる神を鎮めるための
鎮守の森も 神社もなかった
小さな島国で

年ごと確かに遠ざかってゆく
空への小さな足掛かりの
優しい月を揺さぶるための

小さな願いの白魔術を
自分自身にかけてしまおう

それは炎を起こすだろう
荒ぶる神を鎮められなかった
小さな島国に
かすかな熱を起こすだろう

人々を日ごと
何度も何度も蘇生させる
かすかな熱を起こすだろう

空を覆う岩戸の内側で
夜明けまでピアノの音を聴きながら
日ごと遠ざかる月に
優しいリズムで願いをかけたんだ





自由詩 月とピアノ Copyright 大島武士 2014-10-31 00:37:28
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