アルモニカ
nonya


「阿」

宇宙のはじまり
命のはじまり
言葉のはじまり

はじまりの吐息が
外側をふるわせる時
内側のふるえは

色となり
音となり
文字となって
世界を創りはじめる




「流」

流れていく
ひとつの方向へ
それぞれの速度と落ち度で

繰り返さない
巡らない
日々と季節と
サヨナラとオハヨウ

いつも新しくて
いつも古い
ただ賑やかなだけの
命の大河



「茂」

義理と人情と好奇心の数だけ
枝と根っこを伸ばして
嫌っというほどの言の葉を
茂らせてしまったけれど

たった一枚の言の葉を
探しあぐねて
大木は押し黙る

いつまでも蒼褪めたままの
常緑樹林の只中で




「似」

遠い日の
他人の空似は
スペアミントの香り

蛙の子は
気取ってみたところで
モリアオガエル

水溜りの底には
空から零れ落ちた
金太郎飴達

知ったかぶりの
後ろの正面
ドッペルゲンガー




「果」

幼い頃
転んで落とした種は
酸っぱい果実になった

若い頃
指の間から零れた種は
ほろ苦い果実になった

先頃
行儀良く並べた種は
うすら甘い果実になった

毎日蒔いて
毎日採る
そんな繰り返しが果てまで続く






自由詩 アルモニカ Copyright nonya 2014-10-29 21:41:08
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