水の町
オイタル

雨上がり 狭い公衆トイレを出て
銀光りするジャングルジムを抜け
噴水が青空を蹴り返す広場に至る

水の町の夕暮れ
細い水路に図書館は沈み
長い船が坂の途中に停泊する

熱さ除けの茅のすだれの薄い影
自販機のジュースのビンの泡の速さ
ぼくはこの町が大好きだった
町は僕に鼻もひっかけなかったけど

この町の広場で 昔 恋人を裏切った
彼女の声は波紋のようにぼくに広がった
瞼の隙間から 散乱する午後の光が見えた

町を巡って水は旅する
恋人の舌が小川のそばの水桶に映り
僕の胸元には長く白い船が揺曳する

ぼくはぼく自身の水で刻印するのだ
町のあちこちに 生きる証を
町が禁止のサインを繰り返そうとも
何度それを繰り返そうとも

雨上がり 公衆トイレを出て空を見上げると
爆弾のような青空だ なんて空だ 
彼方の甲板で恋人が閉じる 黒い雨傘


自由詩 水の町 Copyright オイタル 2014-10-28 22:35:01
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