夕陽のように温かい物語 三篇
るるりら



【たまきはる】


珠さんが きはりましたのや
珠のような肌のお方でしてな
おおけな光の珠のようでしたな
魂というものに あたたかみというのが
あるのでしたら きっと夕日のようでっしゃろ
魂というものに寸法があるとしたら
あんな おおけな珠でしたら
どれだけ おおけな命でっしゃろか 

人とは呼び難い 
なにかとてつもない その方を、 私は
珠さんと お呼びすることにしました

珠さんは きはりました。
あの二階の窓から
こちらを見ておいでで
ただただ丸く人の姿でもないのに あきらかに
見ておいでだと わかったのでございます。
まあるい球のような御姿のまま
わたしを ただただ見つめて

珠さんは わたしを勇気づけて
帰えられました
わたしの心は なんとも ぬくうなりましたのや
ありがたいことです


【ひきだしにテラリウム】


花の都 タイスルルン
ここでは いきいそぐひとは いない
しにいそぐひとも いない
古びた店の奥で 年老いた店主が
アルコールランプで茶を沸かしている

看板の文字は古びていて読むこともできないが
永遠の春と云う意味だという
この店でも正月になると抽斗から段重ねになった丸い
餅のようなものを飾る

やわらかでしろい その餅のような物は
一年間 抽斗の中におさめられたまま生き続けていて
新年にだけ 家の玄関近くに飾られる
ひとびとは 餅のように ふくよかに笑い
すべてのひとが 善人にみえる

かなしみの国から 逃げてきた人も
店主が茶を沸かし 餅のように笑う
つまらないことから逃げ出してきた旅人も
店主は茶を沸かすと 餅ろん笑う

正月が終わると 餅のようなものは
すっかり緑色の丸い生き物となっていて
しろいと感じてさせていたのは 光だったのだと
毎年のことながら 店主は思い出す

店主は 硝子の容器に
わずかに光る緑色の餅のような物を終う
抽斗の中にしまわれた丸い餅のようなものは
あたらしい年の笑いのために 今も
寝息をたてている



【ふりかえる距離】


みいちゃんは とことことこついてくる
おりこうだから とことことことついてくる
あのかどのまがりがどの 塀の上に
きれいに一列 どんぐりがならべてある
そこから むこうに ひろがる道へは
みいちゃんは まだ 行ったことが ない

みいちゃんのために アップルパイをやく
みいちゃんにあげられるほど じょうずに焼けなかった
かわりに 
あのかどのまがりかどの 塀の上の
どんぐりさんを ひとり ふやす
あまいろの奴隷たち

あの塀のむこうにはいけないけれど
みいちゃんは わたしのアップルパイをきっと食べる
そのとき あのかどの
どんぐりさんたちは
あたらしい季節の中にもれていくだろう

いつか
みいちゃんが
あのかどのところより
むこうの世界を知ったころ

どんぐりたちも
森の一員となって
みいちゃんが ここに帰ってくるのを
待つのだろう



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即興ゴルコンダ(仮)より題名をいただいた三篇です。
http://golconda.bbs.fc2.com/

たまきはる -と、いう作品だけは
現代詩フォーラムが初投稿です。各題名は次の方からいただきました。


たまきはる - あまさらさん
ひきだしにテラリウム - メチターチェリさん
ふりかえる距離-こうだたけみさん

画像は 失敗こそ アップしてみました。あは


携帯写真+詩 夕陽のように温かい物語 三篇 Copyright るるりら 2014-10-28 17:41:01
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