ひとつ 鉄岸
木立 悟






雨のなかの無言
港の夜の終わり
藻の緑の昼と午後
霧は凍る
岸を摑む


埠頭の音が曇に映り
やがて粉と降りそそぎ
常に宙に消えてゆく
影さえ土に到かぬままに


金属を塗られた景が
艶のない風に吹かれている
空の結びめをほどくたび
左目はひとつ増えてゆく


崩れかけた家々に
くちびるを押し当てては崩してゆく
陽の光のなかの埃が
天使のように横たわる


砂を歩き
海を切り取り
次の風まで捨てておく
不自由を欲する自由が
またたいている


誰もいない胸がふくらみ
一晩中苦しませていながら
理由も言わずに去ってゆく
空白を空白に詰め込んだまま


冷たく遠い
青と橙
空と地をまだらに照らし
午後の濁音になってゆく


夢から覚める夢を見すぎて
羽は羽に重なりつづける
岸を埋める飛べない群れ
鉄の柱を見上げつづける
























自由詩 ひとつ 鉄岸 Copyright 木立 悟 2014-10-26 19:37:41
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