百鬼繚乱 < 3 >
nonya
ITTANMOMEN (一反木綿)
薄っぺらな奴だと蔑まれても
捉えどころがないと疎まれても
何処吹く風を自在に乗りこなして
へらへらと今をすり抜けてやる
旗のように風をくらって
縄のように力をあざなって
服のように人をかざって
雲のように刻々と姿を変えたいから
たとえしがらみに引っ掛って
空を仰ぎながら途方に暮れても
たとえ世間体に挟まって
雨に打たれるまま薄汚れても
簡単に破れたりするもんか
ぺらぺらの性根に
しっかり織り込まれているのは
100%コットンの心意気
*
FURARIBI (ふらり火)
眠れない夜に
私の身体を抜け出した
嫉妬は
鳥の形をした
炎になって街をさまよった
あげく
見慣れたドアの
見慣れた部屋の
見慣れた男の隣の
見知らぬ女の心を
掠めて
夜明け前に
ふらりと私の身体に
戻ってくる
*
YAMABIKO (山彦)
何から何まで返してあげる
秒速340mで返してあげる
温かい音は温かいままに
冷たい音は冷たいままに
君のリアルを返してあげる
お世辞抜きで返してあげる
誤字も脱字も全部ひっくるめて
痛みも苦味も容赦しないで
君から出たどんな音色も
すべて君の一部であり全部だから
たとえ美辞麗句であっても
置きっぱなしは許さない
怖くても汚くても逃げたりせずに
ちゃんと持ち帰って欲しいな
*
NEKOMATA (猫又)
いくつもの夜をまたいで
今日だけを生きてきた
大切なのは目の前のご馳走
欲しいものは今日手に入れる
目覚まし時計は雨より嫌い
約束は子供より苦手
足跡を懐かしんだことはないし
夢なんか見たこともない
やっと見つけた今日の獲物は
見た目はカチカチの紳士
中身はトロトロの幼児
まるで半熟玉子みたいな貴方
我儘とか気紛れとか
自分の中の大雑把な物差しを
振り回さないと気が済まない
よくあるタイプの貴方の
甘ったるい常套句の羅列に
とろけたふりをしながら
取るに足らないプライドに
素敵な爪痕を残してあげる
ほんの少し揺らしただけで
貴方は零れてしまうけれど
いくつ夜をまたいでも
私が満たされることはない