かぶと
島中 充

さかなの匂うまちから
黒い袋を抱えて
私は電車の席に座っている
黒い袋をおさえて
乗客の視線が私の膝の上に集まっている
おさえても おさえても 黒い袋が動くのだ
死にたくはないと跳ねるのだ

私はきのう見た夢の事を思っていた
口を開いて死んだ父が
ベッドのわきに現れ
くちぎたなく歴史や私をののしった
親から子へ 子から孫へ 
どうしても どうしても というものだけが
つながっていくのだ
わたしは父をベッドにおさえ込み
開いた口に石を詰め込んでいる 
お前の恨みを私に果させるな
期待になんか応えられない 
私は泣きながらおさえ込み 口に石を詰め込んでいる
いつの間にか父は
石の詰め込まれた首だけになっていた
私はあわてて黒いごみ袋に父の首を押し込み
袋のはしをむすんだ
するとドスンドスンとまるいごみ袋は
飛び跳ねながら床を転がっていった
あわてて追いかけ
私はおおいかぶさって 腹の下に生首を抱き込んだ
おさえても おさえても 黒い袋が動くのだ
そんな夢を見た

家に帰ると 魚はとうに袋の中で死んでいた
えらの後ろから出刃を差し込み 頭を切り落とした
鼻から眉間に沿って 縦に出刃で頭をふたつに割った
私は それを箸でたたきながら 焼いて食った


自由詩 かぶと Copyright 島中 充 2014-10-23 13:05:22
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