降り来る言葉 LXVIII
木立 悟





音のにおいが喉を荒らす
けして呑み干しはせぬ光
壁を越える羽
耳元で話しかけられる
洪水の日のはじまり


砂に突き立てられた羽
あらゆる風に揺るがぬ羽
進めば進むほど狭まる路地で
目から紅茶をふるまう子


宝石に埋まる手
指のはざまからこぼれる空
笑う背 笑う背
血が分ける甲


一ツ目の光の樹の巨人が
朝の終わりを見つめている
冬の透景 凹景に
触れる指を 見つめている


冷たさは腹を目指しながら
常に背中で迷い乱れる
見失う行方の切れ端が
鳥の横顔を飾りたてる


子の目から紅茶を呑みながら
光を散らす坂を見つめる
空に近づき 空を堕とす
白く凍える径を見つめる


暗くなると落ちてくる
黒く小さな蛹の群れを
集めては集めては庭に撒く
ただ 何ということもなく


花を 花を
花を拾いに
わざわいの後ろの
わざわいを呼びに
灰桃色の 空を名付けに
午後を午後を午後を追いに


助けようとして助けられなかった蜘蛛のからだが
消えかけ ふたたび花として現われ
小さく小さく分かれてゆく
汚れた涙を吸いながら


地平線にゆらめく炎は
すべて花でできていて
冷たいかたまりを原にころがし
咲くほどに色を風に変え
午後を高く持ち上げてゆく





























自由詩 降り来る言葉 LXVIII Copyright 木立 悟 2014-10-22 04:31:14
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