夜警
斎藤旧

夜の帳が緩やかに下りてくる頃
わたしの踏みしめたつま先から伸びた
ひかりの波は町をのみこんでゆく
「展望台」の駐車場の淵は
(世界の淵)

『ほら あの向こうのほうは』
『あの子のなみだがまたたいているのです』
まつげのさきがしろい玉になって
ゆっくりと上下するたび、あのひかりはまたたくのだと。
あなたは言った

(どこかに、その子はいるのだろうか)

(ええ、空の消えてゆくように、どこかに。)

まだあどけなく、頬を染めて
なみだは夜を駈ける
グレイとオレンジの混ざる空に黒々と聳える稜線の隙間を、
ひと息に縫い上げてゆく

最後の縫い目を終えたそれを
ぱくりとくわえて梟は滑空する
鼠をさがして、目を凝らしている頭の上は
(星々が降り注ぐ)

『口にひろがるしお味は
あの子の恋しい気持ちから
しおからさをもらっているので
きっとあの子は蒲団の中で
おでこを撫でられながら眠りにつくのでしょう』

賢い梟は舞い上がりながら言った
流星群のうちのひとつになったかのように
しかし夜に向かっていくように

夜は歓喜している。
世界を縫い上げて、生まれた今宵
きらめきを追いかけるように
北極点から落ちてゆく星々

梟の一声を聴いてあなたは、きびすを返した
慌ててならうわたしにあなたは言った
『あの子の涙は、流星になって夢を駈けて、そうしてあの子のところに帰ってゆくのです』


自由詩 夜警 Copyright 斎藤旧 2014-10-22 00:22:11
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