マゾヒスト
ヒヤシンス


秋が盛りの喫茶店で、私は深い瞑想に入る。
祈りをやめたわけではなかった。
カップの中の液体が限りなく黒に近い赤色をしていることに気がつくと
私の中の怒りはどこか闇へと沈んでいった。

窓の外では銀杏並木が黄色い衣を一枚ずつ脱いでゆく。
暖色に敷き詰められた公園通りを人は往く。
夏を偲ばせるものは何も無く、ただ時折存在を明かす
透明な風だけがこの喫茶店の窓を震わせる。

醜いわだかまりは私だけのものであった。
愛の無い言葉は無数の針となって私の心を突き刺した。
動揺し、顔は歪み、それでも私の口元は笑っていた。

今、全てから解放されたはずの男が泣きべそを描いている。
平和が満ち足りないと思う心は恐ろしい。
僅かな幸せが私の弱った心臓にズブリと赤い針を刺す。


自由詩 マゾヒスト Copyright ヒヤシンス 2014-10-21 12:47:34
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