灯り
葉leaf
残業は満水のように人の呼吸を苦しくする
亀裂の入った脳髄は眼に映る街を遺失してしまい
人が慌てていると街の灯りは脳髄を修復してくれる
街の灯りは平等な優しさでどんな解釈も強いない
ただ人が居ることを証明し温もりを伝えてくれる
自然も音楽も家族もない人工的な帰宅列車の中で
街の灯りだけが闇をゆく人の孤独を修繕する
街灯は人を待ち続けているが
ただ疲れた人を照らすだけでどんな出会いもない
人が街灯の灯りを挨拶だと気づいてくれる日は来るか
だが人が挨拶を返してきたとき
街灯はそれでもなおただ照らし続けるだけなのだろう
そしていつまでも人を待ち続けるのだろう
車のライトは何もない夜道にいくつもの幻想を浮かび上がらせる
標識があったり建物があったり人が通っていたり
自動車は一個の夢製造機だから
本当は自動車の前には何も存在しないのに
ライトは人を楽しませるために幻想を生み出し
人を優しく騙してくれる
窓の灯りはおしゃべりだ
もともと窓は昼間でも互いにかしましくおしゃべりしているが
夜になると部屋の住人の自慢話になる
もちろん全てはでたらめで
窓たちはそれを承知の上で笑い合っているのだ
夜ゆく人は窓のおしゃべりを見上げて愉快な気分になる