聴こえるまでの音
かんな




奏でることを
忘れているだけのあさの時間に
点滅する信号機のしたで
歩道を飛び越えてゆくの

行き詰まることを
全く知らない幼子のように
楽譜のうえを歩いては
並んだ音符を避けて通っている

おとこがおんなを
口説くときの常とう句を
旋律にのせて空へと放てば
道行くカップルが雨に濡れるよ

秋を知らせる風音に
口笛を重ねて暮れてゆく日々が
温度をなくしていく紅茶の
色素に染まるまで待てないでいるの

どうかきこえて。

沈みゆく夕陽の
水面下の姿を知らないから
波音に流されてゆく貝殻の群れに
耳をそばだてることしかできないでいる





自由詩 聴こえるまでの音 Copyright かんな 2014-10-15 07:49:11
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