ひかり 遠景
木立 悟






器の底の浅い水
光が光を斬る暮れの揺れ
冷たく置かれた広い空地
誰もいない空と空


手を離し
曇は落ち
再び昇る
撲つ音 撲つ音
光の端の
花ちらす音


異なる羽
異なる曳航
やがてこれから
降るものの影
点滅する
淵と暗がり


花ちぎり 重なり
花となり 花となる
下ろす間もなく
花みちる腕


火のまわりの見えない火に触れ
影は次々と燃え上がる
爪に刺さり 動かぬ声
震えるものに近づく唇


指が燃える
花が指になる
髪が燃える
花が髪になる
誰もいない
誰もいない径の上の
不確かな交換


腔という腔を埋めに来る
熱く静かな赤銅色が
自身を小刻みに震わせながら
明日の昏さに侵入してゆく


足を滑らせ
土を確かめ
上に上に 花を放る
誰もいなくなる
既に
誰もいない街から


午後と同じ色をした
傷のような無人の家々
常に風がすぎ
何も映らぬ水面に
ひとつの花が浮かんでいる



























自由詩 ひかり 遠景 Copyright 木立 悟 2014-10-14 10:18:34
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