どうでもいい一日
Tシャツ

今日は朝から何も無い日。バイトも注射も、人と会う予定も無いし、何かをする予定も作らなかった。だから本当に何もすることが無い。失敗したなって思う。いつまでも家にいても仕方ないから、僕はバイクに乗ることにした。行く先はわからない。とにかく家の近くの川をさかのぼってみる。でも、本当は目的地が無いツーリングは嫌い。どこまで行っていいか分からないから、行き過ぎたら家に帰れなくなるんじゃないかって思ってしまうから。案の定快調に回るエンジンとは裏腹に、僕の心は不安になる。地図も何も持ってこなかったから、自分の現在地もよく分からない。道路は一車線で、みんな飛ばすから停まるに停まれない。どんどん家が遠ざかる。夕陽が傾き始めて、土手の枯れた芝生を照らした。僕はすごいことに気が付いた。枯れた芝生は黄金色に輝いていた。今日が終わる夕陽を受けて、芝生は輝いて一面が黄金になる。命終えたものがこれほど燃えるのは何故だろうかなって思う。僕はカメラを持ってこなくて良かったなって思った。きっと僕はカメラを構えてその一瞬をなんとか手に入れようと、シャッターを切っただろう。そして、写真を現像して思うはずだ。こんなものだったのか…って。きっとそんな無粋なことを感じて、今日という一日が記憶の片隅でだんだん色を失っていくことだったと思う。今日の目的地の無いツーリングの目的地は、この芝生の土手になった。僕はそれでもやっぱり不安だったから、バイクを飛ばして家に帰った。今日僕は思った。何でもない事と、家があるってことは幸せだって。


散文(批評随筆小説等) どうでもいい一日 Copyright Tシャツ 2005-01-30 02:22:30
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