走る青空
砂木

軽トラックの荷台に仰向けになって
青空を見るのが好きだった
実家から水田転化した林檎畑までは少し遠く
父の運転する軽トラックの荷台に乗り込み
寝転がって空を仰ぎながら道々を行った
時折助手席の母が振り返り 私を見る
父と母が笑いながら 畑に向かう

青空は白い雲があるだけだった
まぶしくて 道路脇の木々の葉に視線をそらす
雨の日は合羽を着たまま 濡れながら
でも 父母と行く軽トラの荷台がいつも好きだった

手術をしてから 林檎もぎに行った父
父さん 黙って座っててと 私は言った
父さん はしごなんか持たなくてもいい
父さん いいから休んでいて やるから
ねえ やるから お願いだから休んでいて 父さん

女の子じゃあるまいし
と言って なにかしらしたがる父
病人でしょ と叫びたいのをぐっとこらえた
それは 言えそうで言えなかった

乗れ と父はそれでも 母を助手席に
私を荷台に乗せて いつもと同じように働きたがった
それが何に繋がるのか恐くて荷台で 青空に身を硬くした
最後の荷台から見る空だと 知りたくも無い 感じたくもない

それから また何度も手術して とうとう違う世に行った父
でも 残していった林檎畑は 母と弟達と家族や手伝いの人で
なんとかやっているよ

やりきれなくて切り倒した林檎の木々 草原になった畑も
残して頑張って 果実を実らせた畑も 今でも父が歩いている

難儀かけたなあ 手伝いに行くと いつも父が言ったお礼
まだ父に使われている気がする 参ったなあ
青空というごほうび 貰っちゃってるもんなあ
 




自由詩 走る青空 Copyright 砂木 2014-10-13 20:03:54
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