黒い電線が網目のように空を巡る朝
オイタル

黒い電線が網目のように空を巡る朝
ポンコツみたいな雲がひとつ
薄い空にくっきり張り付いていた
両側の木々は背後に蛇腹に折りたたまれていった

眠れない哲学者のように旅客機が
あちこちに佇んでいた
人々は夏の蜘蛛のように動き回り
しゃべりあい
書類や机や旅行鞄を指さしていた
際限もなく
空港の待合所の逆光の中で娘は
幾人かの人たちといくつかのものたちに
少しずつさよならを言った
階段を上り
ゲートをくぐり
少しずつうすれていった
やがて階段を下って

ぼくと妻は黙って見送った
彼女の前に広がるのは
ぼくたちの見知らぬ時間と空間
おしゃべりと涙

ポンコツみたいな雲はもうどこにもなく
折りたたまれていた木々は僕たちの前に
親しい隣人のように黙って手を広げてくれた
遠い山並が仰向けに空に眠る午後


自由詩 黒い電線が網目のように空を巡る朝 Copyright オイタル 2014-10-07 18:14:37
notebook Home