ある日旅人がやってきた(だーれも知らないシリーズ2)
森川美咲

だーれも知らない
あるところに
みんなとっても仲のいい
素晴らしい村があった

ある日のこと
村に旅人がやってきた
いろんな世界を見てきた旅人は
村人たちの知らないことを
いっぱい教えてくれたんだ
村人たちは珍しい話に飢えていたから
野菜や果物
釣った魚や織った布を持っては
旅人のところへ話を聞きに集まった
村はとても居心地がよかったから
旅人は旅をやめてしまった

時が経つと村人は皆
旅人が旅人であったことを忘れた
なぜ彼は畑にも漁にも出ずに
いつもえらそうに演説しているんだ
そんなことをいう人たちも現れた
みんなが旅人だった男を嫌ったわけではないが
うまく説明できる者はいなかった

かつて旅人だった男は
さあそこで大いに迷った
再び旅人に戻ろうか
村人たちとともに働いて生きようか

さあここは自由な物語の世界
特別に両方の続きを教えてあげよう

旅人だった男は再び旅に出た
残された村人たちは
何だ今までの恩も忘れて
勝手にいなくなっちまって と
それまで旅人の味方だった者も
しばらく旅人の悪口を言ったが
やがて忘れていった

もしくは
旅人だった男は完全に村人になった
慣れない畑仕事は大変だったが
多くの村人たちは温かく
手取り足取り教えてくれた
それまで彼のことを
悪く言っていた村人たちには
疎ましく思う気持ちが何となく残ったが
それもやがて薄れていった

そんな村に
またある日
一人の旅人が立ち寄った
村人たちは珍しい話に飢えていたから…




自由詩 ある日旅人がやってきた(だーれも知らないシリーズ2) Copyright 森川美咲 2014-10-01 04:27:53
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