秋の抽斗
そらの珊瑚
新米を握る母の手は
燃え始めたかえでのように色づき
かぐわしい湯気を蹴散らしながら
踊ってみせる
熱いうちに握らないと
美味しくないのよと
まつわりつく子に言いながら
端をほんのわずか切り取られた
小袋の中身は
時間という小人が
――彼らの食欲はそれはもうみさかいなく凄まじいものだから
食い尽くしたのだろう
ことごとく
からになっていて
透明な成分だけが
これからやってくる
季節のための
セーターの毛穴の中に
宿っている
誰かのために生きている
――わたしの中のささやかな抽斗にも
それを忘れてしまいそうなとき
可逆性樟脳がチカッと香る