カーテンコール
凍月



夜の帳が下りると
夜の幕が上がる
汚れたコンクリートで形を為す
ビル群は薄れて消えて
夜の開演
舞台は暗転
その存在さえ確かでない
小さな秘密を
夜はそっと抱く
昼の世界は微かな輪郭と
ぼやけた陰だけになり
灯る光の役者が
次々と壇上に踊り出る時
瞬く星の拍手に包まれる
夜の劇場

対して
昼は物事が見え過ぎる
見たくないものが
嫌いなものが
醜い感情
目眩
昼の激情
汚れた世界が
街の喧騒が聞こえ
知りたくなかった事が
入ってくる時間
賑やかで楽しげな
だけど僕には合わない世界が
どうしたって見えてしまうから
自分が独りきりって
どうしたって分かっちゃうから

だから
昼の幕を早く下ろして
夜の幕を上げてよ
寒々しく冷たい
美しく孤独な夜を始めて


カーテンを閉めて夜を待つ
開演前の喧しいブザーなんてない
僅かな隙間から月光の花道が延びる
それが合図
宵のはじまり


だから、どうか終わらないで
美しく夜
もっと続いて
あの明るすぎる昼に戻りたくない
夜の幕は下りる
でもアンコールはない
あるのはただ
柔らかく光を放ち始めたカーテン
カーテンが開けばそこには
もう、朝が


カーテンコール
開いたカーテンは閉じてよ
カーテンコール
暗黒の虚空に薔薇を投げて祈る

カーテンコール
お願い、もう一度
三日月の輝く
夜を上演して






自由詩 カーテンコール Copyright 凍月 2014-09-27 21:55:17
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