生きるためになんか生きられない
nonya


強烈な風雨を受けて
折れてしまった月下美人の葉を
何気なく水に差しておいたら

根が出た

その後も根は伸び続け
葉のくぼみに蕾をふたつつけた

さすがに花を咲かせることはなく
蕾は呆気なく落ちてしまったが
新鮮な観察の日々に
心は心地よく波立った

切断された昨日から
明日の根っこが出て
明後日の蕾がついた

などと書いてはみたが

可能性とか奇跡とか
そんな言葉では表せない
驚きとか感動とか
そんな言葉では追いつけない

ささやかな鼓動の変化を
かすかな血潮の満ち引きを
言葉に出来たことなどあっただろうか

言葉を持たないいきもの達は
すべての今日を受け止め
すべての明日を想わず
ただ生きるために生きる

心が折れたらしばらく立ち直れない
社会の幹から離れたら生きていけない
言葉とのいたちごっこに明け暮れて
つまらない意味と名前にこだわり過ぎて
いつも大切なものを見落としてしまう
とても駄目な私は

生きるために生きようとする
真っ直ぐで豊かな命の川面だけをを
小綺麗に体裁良くスケッチして
また誰かに伝えようとしている

駄目だ
嫌な言い回しだ
生きるために生きることなんて
とても出来ない私は
どこまでも不自然ないきものだ




自由詩 生きるためになんか生きられない Copyright nonya 2014-09-27 12:41:39
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