花の下にて、秋
木屋 亞万


金木犀の木を根元から見上げる
町中ににおいが広がる季節だ
朝晩の冷え込みが増して
空の上底が少しずつ遠くなる

太陽の光が弱まり
勢力を拡大する樹木の紅潮
涼しげな暖色が控えめに
湿った肌の彩度を上げる

薄い雲が丸く千切れて空を覆い
つめたい針の雨が降る
金木犀は赤みがかった黄色い粒を
私の顔に落としていく

濡れた花粒が張り付いた頬を
目の悪い迷子の蟻が彷徨う
私を覆う濃い灰色の石が
もはや私の皮膚になった秋

台風の消滅する気配が
遠くの海でした夜に
角ばった石のかたまりが
また1℃くらい体温を下げる

誰も花束を置かなくなった
私の眠る枕元で金木犀だけが
年に一度キンキンと
花とにおいを撒き散らす

遥か彼方で渦巻いた風の赤子の産声から
その行く末を想像する
真っ赤な朝焼けににわかに染まる世界では
金木犀はキンキンと妙に黄色く輝いていた


自由詩 花の下にて、秋 Copyright 木屋 亞万 2014-09-26 22:16:05
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