ぼくの優しい友人
浩一
ぼくの優しい友人は
お前の考え方にはバイアスがかかっている!
と言って突然怒った
バイアスのかかってない奴なんていやしない!
と言い返してぼくも怒った
多かれ少なかれみんなそうなんだ!
日曜の午後の
なかば定例化した我が家での二人だけの座談会
ぼくから見ると
彼はずいぶん左に傾いているように見えた
彼から見ると
ぼくはとても右に傾いているように見えたのだろう
けれどぼくは
右でも左でもないつもりでいた
第一 天下国家を語るような柄じゃない
だけどぼくは
優しい彼のこころにつけ込んで
多額の借金をむしり取るような柄だった
なさけない柄だった
けれども彼は いつでもいいよ
と言ってくれた
だけども彼は
ある種の酒乱でもあった
アルコールの量がある閾値をこえると
ねちねちごりごり
げりげりむちむち
ぼくの自我が崩壊するまで攻撃の手をやめない
だからその日も
彼の手が6本目のロング缶に伸びようとすると
はいこれでお開きお開き!
酩酊ぎみの彼を助手席に乗せ
ハンドルを握れば主導権はこちらに移る
下戸のぼくが彼の送迎役なのだ
道路のうえには夕闇が落ちていた
一台のライトバンがぼくらを追い越していった
ぼくは軽いジョークで空気をつなぐ
「じぁあこれから君の家への近道を通りまあす
君を無事にお家まで送り届けるために
バイアスのかかったぼくがバイパスを通りまあす!」
道路のうえには夕闇が落ちていた