こんにちは。
そらの珊瑚
君は
覚えたての「こんにちは」を
わたしがこぐ自転車の前に付けた補助椅子から
道行く人はもちろん
畑仕事をしている人にも
隔てなく投げかける
たいていの人は
一瞬驚いたような顔をするものの
「こんにちは」と
笑顔と共に返してくれたものだった
わたしたちのほとんどは
見ず知らずの他人のままだけれど
「こんにちは」で一瞬だけ結ばれた見ず知らずを振り返る
梨畑が点在する街の
おとぎなばしのように遠くなった思い出を
今朝
インターホンが鳴り
モニター越しの「こんにちは」を聴く
セールスのそれは人を笑顔にさせない
君は
「こんにちは」のその先にあるかもしれない
煩わしさや魂胆をもう
知ってしまったのだろう
社会のなかで生きていくということは
いろんな垣根を巧く作っていくことでもあるし
善い人ばかりでないと知ることでもあるし
人の中には善ばかりではないことを
もちろん自分自身だってそうなのだと知ることでもあるのだろう
けれど君の
「こんにちは」の魔法を時折使ってみたくなるよ
見ず知らずの
おそらくは善も悪もない
枝に止まった小さな鳥に