【 私の化粧履歴 】
泡沫恋歌

ちょっと長いけれど
暇だったら聴いてください


私は小学校五年の頃 
お化粧に興味を持ちました
鏡台に姉の化粧品が入っていたので
ある日 赤い口紅を塗って
三面鏡に映った自分を見ていたら
外から姉が帰ってきた気配がしました
急いで 服の袖で口紅を拭き取り
慌てて 口紅のキャップをしたら
先が出たままで口紅が折れてしまった
えらいことをしたと思ったが……
姉には黙っていた
翌日 折れた口紅を見て姉は首を捻っていた
――本当のことを言えないまま 月日が流れて 
姉は鬼籍に入ってしまった 
今さら遅いけど……
ゴメンなさい 私が犯人でした


卒業が決まった高三の冬 
体育館に女生徒たちが集められた
これから社会人になる私たちに
資生堂の美容部員さんがやってきて
お化粧の方法を丁寧に指導してくれました
その時 配布された 
頬紅やアイカラーの入ったパレットが
私のお化粧スターターキットだった


社会人になって 
お給料を貰うとその足で
すぐに買いに行くのが化粧品だった
市場の中にある化粧品屋のおばさんに
あれがいいよ これもいいよ
と勧められるままに買わされた
初めての化粧品メーカーは
今は零落した『カネボウ』でした


その後 大人の女へと成長した私
お化粧も上手くなり 若さと相まって
ちょっとは可愛くなったと思う(自画自賛)
アイライナー マスカラ マニキュア 香水――と 
二十代 三十代 私のメイクはフル装備だった!
化粧品も海外メーカーを使うようになった
シャネルの口紅は18番(廃番)のローズレッドが好きでした
有名ブランドの化粧品をデパートで選ぶのが
女のステータスだと思っていた


   眉が太くなったり 細くなったり
   口紅が濃くなったり 薄くなったり
   髪の色も明るくなったり 暗くなったり

   時代と共に化粧は変化していった

   新しい恋をする度に
   また恋人が変る度に
   私は化粧のやり方を変えていた


出産のために里帰りしたら
母が私の口紅が赤過ぎると文句をいう
これから子を産んでお母さんになる女が
そんな赤い口紅を塗ってはいけないと叱られた
そうか お母さんは女を主張してはいけない
お母さんは女じゃない?
だから 子育て中は化粧を控え目にしていたが……
そのまま ズボラになって化粧がおざなりになってしまった
そこからオバサン化が始まったようだ


今はもう若くないので
お化粧は身だしなみ程度になった
気軽に買えるドラックストアで
トイレットペーパーと一緒に化粧品も購入
安くて品質が良ければいいのだ
私の化粧履歴は
デキの悪い顔をきれいに見せたいと
あれこれ思考錯誤しながら辿った女の人生絵図
けど美容整形までしたいとは思わなかったなあー
拭き取れば また元の自分の顔に戻れる
お化粧が好きなんだ!


   今でも
   新しい口紅を選ぶ時の
   あのトキメキだけは忘れたくない

   女は死ぬまで
   美しく在りたいと願う生き物です――


                               2014/09/18


自由詩 【 私の化粧履歴 】 Copyright 泡沫恋歌 2014-09-18 10:06:36縦
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