曼珠沙華
藤原絵理子


畦道は緋毛氈 緩やかに
尖っていた葉を 柔かな色に変えて
稲穂は黄金色に 垂れた頭が揺れる
埋もれてしまえば 高い空はあの世へ


お寺へ続く 暗い石段の両側で
「死人花」と嚇された 幼い子供は
影も形も消えうせた 夜が暗闇だった彼方に
美しかった 畏れを抱く心と一緒に


真っ赤な冠を揺らせて
黒い蝶が口吻を伸ばす 薄暗がりに
いくつもの魂が待っている その接吻を


手を合わせて 目を閉じると
法師蝉の遠慮がちな声 最後の鳴き声
あたしは祖父母に どこかで寛恕を求めている


自由詩 曼珠沙華 Copyright 藤原絵理子 2014-09-17 21:19:01
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