恋人になっていたかもしれない男
森川美咲

恋人になっていたかもしれない男と
冗談を言う夢を見た
醒めたあともまだ楽しいような
生々しい夢だった

恋人になっていたかもしれない男と
大喧嘩する夢を見た
醒めたあともまだ腹が立つような
生々しい夢だった

恋人になっていたかもしれない男は
恋人にはならずに
あの日私にかけたとおなじ言葉を
ある日傍らに咲いた美しい花に捧げ
恋人になり夫となり
遠い町で父となった

恋人になっていたかもしれない男と
恋人になっていたかもしれないと気づいたのは
彼が旅立ってからだった
と思うことにした
何も気づいていなかった
ということにした

時々ふつふつと湧いた何かが
重い蓋を押し上げてあふれ
恋人になっていたかもしれない男の
生々しい夢を見る
また今夜も


自由詩 恋人になっていたかもしれない男 Copyright 森川美咲 2014-09-16 04:49:29
notebook Home 戻る この作品のURL