過子、という女の子がいた。
もしかして、過子ちゃん?
と、何回尋ねられても過子は
いいえちがいます
と答えた
町の明かりが年中点いているこの星では
限られた場所にしかすむことができない
もうすこしで掘りつくしてしまうかもしれない
という噂が流れてから
長い時が経つが
その間に虫達は肌の色を変え
僕たちには見えない音を重ね
何か話しているようだ
これからのこととか
過子、は
初めて髪を思い切ってのばすことにした
でもここでは水はとても大切なものだから
誰も話かけてくれないようになった
それとは裏腹に
水色は遠い昔に奪われてしまった、から、
過子は髪を洗うのがいやだった
ベルトコンベアから流れてくる石の量が、極端に減り始めた
大人達が首を傾げながら地図を広げては、あれこれと難しい言葉を
小さな声で、でも皆には聞こえるくらいの大きさで発話し、同じ内容の会話を繰り返していた
昨日大規模な落盤が世界各地で相次ぎ
僕の友達の友達の両親が、その事故現場に駆け付けたという話を受けて
怖いとは思ったが、でもまぁどうでもいいやとおもった、
家に帰っても部屋にはゴミ捨て場でひろった電気スタンドしかない
過子は無数の貝殻で埋め尽くされた浜に来ていた
貝殻の中には黒い炭酸水が土くれになって詰まっており
これらが多分に含まれた海水を浄化して女達は髪を洗っていた
それが、どうしてもいやだった
まもなくドアがしまります
と駅のホームから錆びだらけの、二両編成の電車が、錆びだらけのホームから発車した瞬間に、近くで崖崩れが起きた。幸い負傷者はでなかったが、次の電車に乗る人の数は増え、町の新聞にも大きく取り上げられ、またホームは町は家はホームは、と限りなく続く循環の中で錆びていき、寂れていった。馬鹿みたいなこといってないであんたもここからでていきなよって、いわれたが、とっさにだれかが何かをいいかえして、それをだれかが聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声で言い返した。その間、だれも作業をやめなかった。
過子はオカリナの吹き方を知っていたから
黒い森の中をいくら歩いても
迷うことがなかった
虫達の騒めきと鳥達鳴き声は静かではなく饒舌だった
言葉をしらないのではなく言葉なんていらなかった
過子は森の奥で進む度に靴を脱ぎ
髪を纏めていたリボンを解き
靴下を脱いで
防護服を外し
最後にマスクをとった
白いワンピースを着た過子の裸足が苔の上に次々跡を残していった、
そしてまだできたばかりの洞の中に入ると
過子は動物達の開く演奏会の小さなステージに立って
名前の忘れられたうたを歌った
僕はそれに火を放った
僕はこの星に残された森を焼き払うようにいわれた
僕は少しだけ反対し
彼もそうだなといって
ブラインド越しに星一つない空を見上げた
けれど、僕たちはすでに夜という言葉すら失いかけていた
林の中でいくつもの見たことのない生き物や木々の細かい腺、葉の形が見えた
草花を見た、けれど僕にはそれらをうまく形容する言葉も、意識もなかった
その時、奥の方に白い影を見たようなきがした
「なにかあったのか」
「いや、」
僕の目は足は影を追っていた
僕は初めて人から貰った無線機を地面に投げ捨てた
光に包まれた最後の日に
あらゆる場所で
あらゆるものが崩れていくなかで
あらゆる温度がすり減っていくしかない
穴だらけの場所で
穴ひとつない空を仰いでは
穴を掘り続け
最後に点けた炎が
あらゆる比喩を纏めてそらにうちあがると
僕に見えなかったものを映し出した
即興ゴルコンダ(
http://golconda.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=4850616#10667845)