はくじょうのひと
中村 くらげ
「ゴミ箱が目印なんです、見えないんだけどね。」
肩を貸してホームの隙間を越える
電車は揺れ始め吊り革と白杖に塞がれる両手
私とその人は目を見て話をした
「どこ見て歩いとんねん!って怒鳴られたりしますよ。」
がははと笑って冗談を飛ばしているから
杞憂も飛ばされて笑顔になってしまう
「新しい人生を楽しんでいるところです。」
常に緊張状態が続く闇の中でも
その人には光が見えるのだろう
目を閉じて耳を澄ましてみる
車内は喋り声と車輪の音
がたんごとん
がたんごとん
『次は明石、明石です。』
「また何処かで会えばよろしくお願いします。」
「それでは、お気をつけて。」
駅のホームがだんだん遠くなっていく
車窓を流れる夜の街はやけに明るかった