私を待つ
為平 澪

詩を待つように 私を待つ
たとえばバス停
駆け込み乗車して
時間に運ばれていく人と
置き去りにされる私
発車したバスがベンチから遠ざかるスピードで
私たちの溝はできてゆく

同じ街まであなたを
追いかけてきた情熱に
私は乗り遅れてしまったのだ

じろじろと私の荷物の中身を
透視しようとする
小賢しい人混み

私は守る
私の住民票
私だけの記入欄にいる あなたの名前
真実味を帯びた嘘みたいな名前

大切に抱えて 泣き出したのは
私があなたを追いかけすぎて
私を 見失ったから

私は 一枚で二枚の紙切れになりたかった

いつかは 名前ごと
燃やされるのだから
あなたと 灼かれたかったのに

バス停で産まれた孤児が
柔らかな詩をかくように
「私」をお待ちなさい、と
また この時刻に服の裾にしがみつくので

もう一人の私が
産声を…

発車させてしまうしかない


自由詩 私を待つ Copyright 為平 澪 2014-09-09 10:01:08
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