ゆく夏に
藤原絵理子


水絵具で描いた 月の光
宵待草の恋は セピアの思い出に
茶色い時代の かざぐるまが回った
夜店の裸電球に くっきりと影を作って


夏が去っていく 風と花を連れて
公園の片隅に ぶらんこが揺れた
名前も知らない 雑草の穂が
帰る場所のない こころのように


海の色に戸惑った 白い波は砕けて
畑のひまわりは 揃ってこちらを見ていた
ポプラは高く 風を集め 光を集め
目を閉じると 赤い花が揺れていた


四色羽根のかざぐるま
回って色は 溶け合って消えた
ほうき星の尾に掃かれて
言葉は なすすべもなく とりどりに


丘の上から飛ばした 夕暮れに
紙飛行機は滑り降りた 赤く染まって
軒下の巣は 留守になって
燕は手紙を運び去った 遠い南の国へ


静けさを取り戻した空に ぽっかりと
鮮やかな油絵具の 月が浮かんだ
干からびた ゴッホの耳が
がさがさと 石畳を転げまわる季節へ


自由詩 ゆく夏に Copyright 藤原絵理子 2014-09-08 22:16:59
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