乱太郎


冬の間近に聴こえた去勢の声が
立ち止まらない足跡に踏み締められてしまって
還らない記憶となる

季節は幾度も挨拶してくれるが
それ以上語り合うことはないので
私の名前を一向に憶えてはくれないようだ

尖がった山の頂上から
新しい衣を着た旅人が降りてくる
始まりの歌
再会の喜びの歌
口笛は土中の卵にも響く

季節は幾度も往来するが
その度に舞台の小道具は変えられる
私に手渡される台本に私の名前は印刷されない

越境した蝶々の夢
蜃気楼となって秋の城が地平線に浮かび
独りの作曲家の記した楽譜
空白に閉じ込める夕陽の嘆き

冬の間近で遠のいていく私の木霊
樹木に絡まって身動きもままならず
六本の矢に何度も刺されていくことだろう
私の声はもう土にもなれない


自由詩Copyright 乱太郎 2014-09-08 17:44:51
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