「正しくないこと」の行方
うめバア


正しい言葉があふれている

論議を差し挟んだりしてはいけません
みんな、違うのだから
人はそれぞれなのだから
「それって少しヘンじゃないかな」
なんて、絶対に、言ってはならないのです

ツライとか、クルシイとか
カナシイとか、そういう
ネガティブなことはいけません
みんなが、
楽しいマツリで盛り上がっているのだから

正しいことだけを見て
正しくないことは、排除するのです

正しい
とても正しい

怒ってはいけない
取り乱してはいけない

誰よりも先に大きな声で
正しいこたえを言うのだと
彼女や彼たちは学んだ
時には、知らん顔で
誰かを蹴落とすのも「技術」
ヤラなければヤラれちまうのだと

そして実際いつも誰かが
ヤラれていた

仕方がない、あいつは正しくなかった
あいつは暗かったし、ずるいことをした
みんなのいい雰囲気に水を差した
横に転がしておいても平気さ
センセイも、とがめたりはしない

渦の中では
身を閉じていよう
黙っていることが
何よりも賢いのだ
身を守るためには
口を閉じていなければ
100%正解とわかっている
言葉だけを、上手に選びたい
だから、記述式よりも
テストはマークシートがいい

ねえ、でもさ、それって何なの?
昔、自由なころに彼女が言った

風が吹いていた
思い切り、息を吸い込んだ
あのころ

イミフメイ
権力者たちの悪口
聞いてるふりして聞いてないよ、のジェスチャー
丘の上では
正しくないことばかり並べて
げらげら笑い転げてた
誰かに認められるためじゃなく
ただ
テキトウに転がっているものばかり
拾い集めて

ああ、まだ、どこかにあるはずだ
正しくないものが
テキトウで、どうしようもないものが
弱くて、軽くて、すきだらけで
早く、早く、隠さなければ

正しいものに、塗りつぶされてしまう前に



自由詩 「正しくないこと」の行方 Copyright うめバア 2014-09-08 11:56:02
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