軋る哀しみ
凍月
夜も寝静まった
時計の針の音が創る時間に
黒い廊下を歩くと
身体の重みで床が軋む
軋む
軋む
廊下全体が
さらには世界全てが軋んでいるようだ
哀しい
哀しみは重い
重く冷たい
今の僕は哀しみで出来た泥人形
歩く度
軋む床に滲む感情
それでも尚、尽きぬ哀しみ
冷蔵庫を開け
冷気を感じる
感じる?
今の僕の方が冷たいさ
コップに水を入れて飲む
気色の悪い温さだった
僕と温度が違い過ぎる
水に氷を5つほど入れる
沈んだ氷が悲鳴のように軋み
ひび割れて冷たくなった
体内にそれを流し込む
染み渡る
二番目に冷たい感情は哀しみ
飽和した体内から哀しみの冷水が溢れ
一輪の薔薇を咲かせたが
薔薇は一瞬にして凍り
震える指先で触れると
音もなく砕けた
ああ
哀しさで崩れ落ちるような時に
音はしないのか
誰にも気付かれず
何も残さず
ただ哀しみに圧し潰されて壊れるのか
何故哀しいのかはもう忘れたのに
未だに廊下は軋んでいた
部屋に戻りベッドに沈み
纏わりつく冷気に悶えると
ベッドが軋んだ 骨が軋んだ
脳内で
氷の悲鳴と薔薇の崩壊が重なり
哀しみが軋む音を聴いた