神様の言い分
りす

無傷で帰ってきやがって、と
言われるのだろうな、あの世で。
いや、神様は上品だから
無傷で帰っていらっしゃるなんて、と
やんわりと非難されるかもしれない
かすり傷ひとつあれば
神様は黙って通してくれるだろう、でも
きれいな体ひとつで 天国の門前に立っても
一歩たりとも中へ 入ることはできない

天国とは、たぶん
そういうところだ

なに不自由ない暮らしをしてきたのでしょう
パンと葡萄酒のほかに
食後のスウィーツも食べたのでしょう
神様が僕をにらんで眉をひそめる

神様に気に入られようと僕は
一生懸命に罪の告白をした でも
いくら口を動かしても 声がでない
口をパクパク開け閉めするばかりで 
声がでない

その 
口という名の穴のせいで
あなたは自由だったのです
その 
口という大きな穴のせいで
あなたは無傷だったのです

口という暗い穴に なにもかも詰め込んで
口という暗い穴で なにもかも創り出して

そのせいであなたは 天に召されないのです

では、この口をふさげば 良いのですか?
何も、告白しなければ 良いのですか?
声に出さず、祈れば 良いのですか?
教えてください、神様。

しかし いくら口を動かしても 声がでない
神様には 僕の声が 届いていない
僕は いつまでも いつまでも 天国の門前で
口をパクパクしていた

天国を創り出したのは ほかでもない 
この口であるとも知らずに


天国とは、
たぶん、
そういうところだ





自由詩 神様の言い分 Copyright りす 2014-09-07 13:44:18
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