黒い石に
藤原絵理子


月夜の帰り道
青白い横断歩道で 拾った
白い帯にぽつんと 真っ黒い穴
無造作に転がっていた 黒い石

指先が ぽっ と暖かくなったような
無機質な石よりも 柔らかい感触
左折してきた車のライトに
あわててバッグに滑り込ませた

LEDライトで照らすと
半透明の奥から 秘密めいた模様
自然にできた プラスチックのような
遠い昔の物語を 語るような

高貴な黒い石を
あたしは 飾り棚の真ん中に置いた
オキシペタラムやバジルやスミレの種を入れた
瓶を従えて それは女王様になった

長い間
あたしは 彼女の 秘密を知らずに

女王様を燃やした夜
無骨な蒸気機関車の匂いが広がって
リンボクの森の深さや 蟲たちの物語が
朱色の炎に浮かんでは 薄らいだ

高貴な黒い女王様が お湯を沸かして
太古の呪いを 解き放つとき
街には電灯がともり 電動機は回転する
幸せは偏在して 島は海に沈んだ

草花の種は 花壇で花を咲かせ
従者がいなくなった 黒い石は
あたしの飾り棚の真ん中で ひとり
もう女王様ではなくなってしまった


自由詩 黒い石に Copyright 藤原絵理子 2014-09-06 22:35:28
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