ココナッツマン!ワンダーランドの町を出る
オダ カズヒコ
そこはアパートメントというよりも、防空壕のようであった。
うなずけないことではない。
ココナッツマンにとって、世の中は戦場のようなものであり、
いつ黒い嘴を持ったステルス機による、絨毯爆撃があってもおかしくはないのだ。
爆撃?ステルス機?それはココナッツマンの妄想に過ぎないのではないか?
ほら、ココナッツマン。外へ出てごらん、町は平和だよ。
彼は言う、
分厚いスクラップブックに綴じられた、黄ばんだ新聞記事の切り抜きを見せて、ここは半世紀前、戦場だったのだと。
アニーはココナッツマンを助けようと思った。
アパートから出て、酷く落ち着きのない、ココナッツマンを、アリーは無理やりキャデラックに押し込み、キーをブルンとひねり、アクセルをグンっと踏んだ。
「スピードの出しすぎ!」
ココナッツマンは思わず叫んだ。
アニーは、スピード狂だったのだ。
道端に転がっている干上がった鼠の屍骸を踏み、ポンっと跳ねが上がるキャデラック。
カーブでは、対向車の、ヤー系のおっさんを驚かすほどのギリギリのステアリングでハンドルを切り。
助手席のココナッツマンは、上着のポケットからタバコを取り出し、震える手つきで、落ち着こうとしたが、マルボロの箱から出てきたのは、萎びたマカロニだった。
仕方なくココナッツマンはマカロニに火を点け、思い切り煙を吸い込んで、咳き込んでしまった。
「チェッ!こんな悪戯をするのは、カーマイクルのやつだな!」
ココナッツマンはキャデラックの天井に頭ぶっつけながら、アニーの横顔を見た。
亜麻色の髪と、大理石のような白い肌。
アニーの目が突然輝いた。
遂にワンダーランドの町出たのだ!
「やったね!(๑≧౪≦)てへぺろ」
アニーはガッツポーズした。
しかしココナッツマンははっきりと見てしまった。
アニーがラバソールの白い靴を履き、全くアクセルを緩める気配のないことを!