追憶に
藤原絵理子


透明な木漏れ陽が ころころと
転がっている 密やかな苔の森に
生を終えた 蝉が仰向けに凝然と
夏の終わりは こっくりと乾き始めた


風が流れて 何かを囁いて過ぎた
手を繋いでいたよね あの夏
森の小径は しん と静まって
山羊の草を食む音が 朝霧の向こうから 


黄色い花の名前を あたしに告げた
気遣わしげに そっと 触れながら
きみの白い指先が うっとりと 夢見るように


白樺の林を ひらひらと音も立てずに
あたしは 黒い羽の蜻蛉を追いかける
忘れてしまったものを 思い出すために


自由詩 追憶に Copyright 藤原絵理子 2014-08-29 22:03:50
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