今日のカレー(京子の場合)
吉岡ペペロ
京子は弱くなければ優しくなれないと思った。
逃げ出したいほどのみじめな生活。
この暮らしを憎むのではなく愛おしむには、じぶんが弱くなければそうはなれないと思ったのだ。
体育の授業は校庭をぐるりと何周もするだけのものだった。
胸を揺らすのがいやな子や、ほんとうに生理の子たちはその時間を中間テストの勉強にあてていた。
京子は校庭を走っていた。
この景色を将来涙とともに思い出すような気がした。
みじめだった。悲しくて悔しかった。校庭を砂ほこりがまっていた。
お父さんが中毒症状で倒れ、お母さんが取り調べを受けていた。
つまらないドラマみたいだ。
ともだちはまだ知らないようだった。
いずれ知ることになるだろう。
みんな知ってて京子のまえでだけはその話をしないのかも知れない。
息があがってきた。
さっきの化学の授業が理解できた。
夕飯はいつもカレーライスだった。
あの日もわたしはカレーを食べた。
弟も食べた。
お父さんのカレーにだけ毒が入っていた。
わたしも取り調べを受けた。
弱くなければ優しくなれないと思った。
思ってはいるけれどわたしはもういつでも爆発できるほど破綻していた。
どんぐりころころどんぐりこ。
どんぶりころころどんぶりこ。
どんぐりころころどんぶりこ。
どれがあってるんだっけ。
どれがまちがってるんだっけ。
走り終わったら冷たい牛乳を飲みたいと思った。
口のなかがじゃりじゃりしていたから。